淡中 圏の脳髄(永遠に工事中)

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Πάντα ῥεῖ

堂々と 堂々巡りで 堂にいる

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堂々と 堂々巡りで 堂にいる

 ムカつくので小説家を殺して庭の木の根元に埋めたら、案の定枝に小説の書かれた紙葉が鬱蒼と繁茂した。暇で暇で死にそうなので試しに読んでみると、どうやら俺への恨みつらみが書かれているようで大層面白そうなのだが、いかんせん番号が降られていないので読む順番が分からない。こんなことになるんだったら、ノンブルくらい付けろ、と殺す前に言っておくんだったなと思っても後の祭り、仕方がないからタイムマシンを作ろう。しかしどうあがいてもタイムマシンをすでに作った自分が未来からタイムマシンに乗って現れることはなく、ただ一日かけて一日未来へ行くだけの生活が続いてしまう。このままでは暇で暇で死んでしまうので、小説でも読もうかと思った俺は大変いいアイディアを思いついたような気がした。小説の中では、いくら物理法則をねじ曲げようがなんの問題もない。タイムマシンだって作り放題である。だから小説の中でタイムマシンを作ればいいのである。もちろんそのタイムマシンを俺が使えなくてはなんの意味もないので、俺自身を主人公にして小説を書くことになる。善は急げとばかりに、物にこだわる俺は満寿屋の原稿用紙とモンブランの万年筆を買ってきて、さっそく机に向かって筆を走らせる。しかしなぜだか上手くいかない。俺は気づいた。小説家は幾ら物理法則をねじ曲げようとも、作中に自分よりも頭のいい人物を登場させることはできないのだ。俺は作中の俺を超常現象級の天才として描写するが、その俺は幾ら俺が「小説の中なんだから、さくさくっとタイムマシンくらい作っちまえよ」と唆しても、自分が俺の書いている小説の登場人物だと納得せずに、タイムマシンをすでに作った自分が未来からタイムマシンに乗って現れるのをただ日がな一日待ち続ける生活を止めようとしない。自分が創造したはずの作中人物が思う通りに動いてくれないことに業を煮やした俺が、自分の惨めな姿をその目で見ることで改心を促そうと、その小説を俺に読ますと、俺は「いいアイディアを思いついた気がする」と小説を書き始めようとする。かと思えば自分で書いた作中人物にたらたらと文句を垂れ始めやがった。いつまでたっても進展しない状況にムカついた俺は俺を殺す。こうして俺は庭に生えている木の根元に埋められてしまい、腐りはじめた五臓六腑から恨みつらみが土に溶けだし、それを木が根から吸い上げて、葉の表面に滲みだしていく。俺はどういう順番に読むべきなのか悩んでいるらしいが、ばあか、世の中や俺自身への怒りにまかせてその場その場の勢いで適当に書いてるだけなんだから正しい順番なんて最初からねえんだよ。

 そもそも今てめえが読んでいるのが小説だなんて証拠がどこにあるっつんだよバーカ!

解説

これも自分が何を考えて書いたのか覚えていない作品だな。そんなんばっかだ。

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